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静岡家庭裁判所富士支部 昭和50年(家)244号 審判

申立人 中村宏(仮名) 外一名

主文

本件申立を却下する。

理由

本件申立の理由の要旨は、申立人らは夫婦であるが、申立人中村宏の母大山良枝の実家である大山家の家名を承継すべく、申立人らの氏「中村」を母の氏「大山」に変更するについての許可を求める、というのである。

よつて審案するに、本件記録中の各戸籍謄本、住民票謄本、当裁判所の大山良枝及び申立人両名に対する各審問の結果を総合すると、申立人中村宏は中村清・良枝間の子であつて、昭和四九年八月七日申立人美津子と婚姻し、以来父母と別居して独立に生計を維持し現在に至つていること、本件子の氏変更の許可がなされても、申立人らの生活関係には何らの変更も予想されないこと、申立人宏の母良枝は昭和五〇年四月八日夫清と協議離婚の届出をしているがその実情は自己の実家である大山家の跡継がないことから、同家の家名を申立人夫婦に承継させるべく、その手段として協議離婚のうえ復氏したものであつて、夫清とは従前と変らぬ同棲生活を続けており、申立人夫婦が大山の氏を称することになれば、再び清と婚姻する旨の届出をなす意向であることが認められる。

上記認定の実情によると申立人両名と母良枝が共同生活をしている事実もなく、呼称上の便宜その他の氏の変更を正当とすべき事由も何ら存しないのであるから、本件申立は子の氏変更により家名を承継するという専らいわれのない因習的感情を満足させる為になされたものと認めざるを得ず、家の制度を廃止した現行民法の精神に反するものであり、子の氏変更申立権の濫用ともいうべきものであるから、これを認容することはできない。

なお、念のため付言すると、母良枝の協議離婚は、実質的な夫婦関係解消の意思を欠き、無効であり、母の氏は戸籍上の記載の如何に拘らず離婚届出前の「中村」であるから、本件申立は前提を欠くものといわなければならない。

そうすると、本件申立は、いずれの面から見ても理由がないので、これを却下することとし、参与員漆畑雅治の意見を聴いたうえ、主文のとおり審判する。

(家事審判官 北野俊光)

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